
三葉虫の化石を買いたいけれど、偽物が多いと聞いて不安になっている人も多いのではないでしょうか。とくにモロッコ産の三葉虫は、樹脂で作られた複製品が本物として売られている例が知られています。
ただし、「偽物」と一口に言っても中身はさまざまです。
すべて樹脂で作られたものもあれば、本物の化石に修復を加えたものや、複数の個体を組み合わせたものもあります。
この記事では、三葉虫ならではの確認ポイントを、購入前に写真で見る点と、手元の実物で見る点に分けて紹介します。これから三葉虫を買う人も、すでに持っている標本が気になる人も、順番に確かめてみてください。
三葉虫の「偽物」は4種類ある
三葉虫で問題になる加工は、ひとつではありません。どこまでが本物なのかによって、標本の価値も、確かめ方も変わってきます。

| 種類 | 中身 | 見つけやすさ |
|---|---|---|
| 樹脂の複製 (キャスト) | 本体がすべて樹脂などの人工物 | 気泡・母岩の色で気づきやすい |
| 修復 (リストア) | 欠けた部分をパテなどで作り足したもの | ブラックライトで見つかることがある |
| 補彩・コーティング | 色やツヤを塗料で整えたもの | 色ムラ・不自然なツヤで判断 |
| 合成 (コンポジット) | 別々の個体の部位を組み合わせたもの | 外見だけでは判断が難しい |
修復やコンポジットでも、使われている部位が本物なら「完全な偽物」とは言い切れません。とはいえ、加工の範囲が説明されずに売られていれば問題ですし、無加工の標本より価値は下がります。
加工の有無がどれくらい価格に響くかは、「三葉虫の買取相場はいくら?」でまとめています。
まずは自分が確かめたいのがどの加工なのかを意識しておくと、このあとのチェックが進めやすくなります。
偽物が多い三葉虫の特徴
すべての三葉虫が同じように偽造されているわけではありません。偽物が出回りやすいのは、産地や種類にある程度の傾向があります。
モロッコ産デボン紀の三葉虫
偽物の三葉虫が多いことで知られるのがモロッコ産です。1980年代に人気の高いパラドキシデスで偽造が始まり、その後ほかの多くの種類に広がったとされています。
なかでも、黒い殻のデボン紀の三葉虫は複製品が多く見られます。ファコプス、ディクラヌルス、ケラタルゲスなどは、とくに注意して見たい種類です。
大型の種類・トゲの多い種類
大型の個体や、長いトゲを持つ種類も注意が必要です。本物は地中から完全な形で出てくることがほとんどなく、割れたものを接着したり、欠けた部分を作り足したりしていることが多いためです。
20cmを超えるような大型のものでは、本物の部位が一部だけで、大部分が修復という標本もあります。見栄えがよく、トゲが一本も欠けていない標本ほど、修復の範囲を確認しておきましょう。
普及種でも加工はありうる
フレキシカリメネ(カリメネ類)やエルラシアなど、数多く産出する種類は、手間をかけて複製するメリットが小さく、まるごと偽物という例は多くありません。ただし、色を塗ったりコーティングで黒く見せたりしている場合はあります。
安い普及種だから絶対に安心、とは言い切れない点は覚えておきましょう。それでも、まずは偽造の多い種類から慎重に見る、という優先順位で考えると判断しやすくなります。
購入前に写真で確かめる4つのポイント
通販やフリマ、オークションで買う場合、手がかりになるのは写真だけです。次の4点は、拡大できる写真があれば購入前に確認できます。

同じ形の個体が並んでいないか
樹脂の複製は、同じ型から何個も作られます。
そのため、ポーズ・大きさ・トゲの角度までまったく同じ個体が、店の一覧にいくつも並んでいることがあります。
本物の化石は、同じ種類でも一体ごとに形や保存状態が違います。同じ見た目の標本が複数あるときは、複製を疑うきっかけになります。
母岩の色が上下で違わないか
モロッコ産デボン紀の三葉虫で有名な手口が、本体と周りの薄い母岩を樹脂で作り、本物の石灰岩に貼り付ける方法です。
この場合、三葉虫のすぐ周りの母岩だけが明るい茶色で、裏側や下の部分は濃い灰色、というように色が分かれます。
写真で見るときは、次の点を意識してください。
- 母岩の上面と側面の色が同じか
- 本体の周りだけ色が違わないか
- 色の境目に細い線がないか
デボン紀の産地では、母岩が全体に濃い灰色の場所や、赤みがかった・淡い黄色の場所があります。いずれにしても、本物は広い範囲で色がそろっているのが基本です。
ヒビが本体と母岩をまたいでいるか
モロッコのデボン紀の三葉虫は、硬い石灰岩から取り出されます。そのため本物には、本体と母岩の両方を横切る細いヒビが入っていることがよくあります。
ヒビが三葉虫の上から母岩まで一続きになっていれば、本体と母岩がもともと同じ岩だったと考える手がかりになります。
ただし、ていねいにクリーニングされた本物ではヒビが目立たないこともあるので、ヒビがないだけで偽物とは決めつけないでください。
殻の色とツヤが不自然でないか
モロッコ産デボン紀の三葉虫は、殻が黒いものがほとんどです。複製品は茶色っぽかったり、プラスチックのように均一なツヤがあったりすることがあります。
一方で、クリーニングの工程で本物の殻にツヤが出ることもあります。色やツヤは、ほかのポイントと合わせて判断する補助材料と考えましょう。
手元の実物で確かめる3つのポイント
すでに持っている標本や、店頭で手に取れる標本なら、写真よりも多くのことがわかります。10倍程度のルーペとブラックライトがあれば、自宅でも確認できます。

ルーペで気泡と複眼を見る
樹脂は固まるときに気泡ができやすく、表面に0.5mmに満たない小さな丸い穴が残ることがあります。殻やトゲ、周りの母岩に、丸い穴がポツポツと並んでいないかを見てください。
ファコプスの仲間は、目に小さなレンズが並んだ複眼を持っています。本物ではレンズの粒がはっきり見えますが、複製ではこの細かい構造を再現しにくく、目がつるっとしていることが多いのです。
ただし、粒状のレンズが見えるのはファコプスの仲間に限られます。ほかのグループの三葉虫では、目の表面がなめらかなのが普通なので注意しましょう。
殻の表面の細い線を見る
本物の三葉虫の殻には、尾の部分などに細かい筋状の模様が見られることがあります。いぼ状の突起や小さなくぼみなど、殻の表面にはこうした自然な凹凸が残っているのが普通です。
複製品では、こうした細部が省かれてのっぺりした表面になりがちです。ただ、削りすぎたクリーニングで本物の模様が消えている場合もあるため、これも総合判断の一材料です。
ブラックライトを当てる
樹脂は、紫外線を当てると周りの石とは違う光り方をすることがあります。暗い部屋でブラックライトを当て、一部分だけ白っぽく、または青っぽく光らないかを確かめてみてください。
部分的に光る場合は、そこが修復や接着の跡である可能性があります。ただし、本物の部位どうしを組み合わせたコンポジットは、樹脂を使っていなければ光らないため見つけられません。
ブラックライトは修復の範囲を知るのに役立ちますが、これだけで本物と断定できるわけではありません。光ったからといって即偽物と判断せず、ほかのポイントと組み合わせて考えましょう。
本物でも「偽物っぽく」見える特徴
偽物を警戒しすぎると、本物の自然な特徴まで疑ってしまうことがあります。次のような点は、本物の三葉虫にもよく見られます。
- 頭の両脇の部分がない
- 接着したヒビがある
- 小さな白い点がある
- 体が丸まっている
三葉虫は成長のために脱皮をしていました。
頭の両脇にある「自由頬」と呼ばれる部分は脱皮のときに外れるため、この部分がない化石は脱皮殻である可能性があります。
また、クリーニングで工具が殻に当たった跡が、小さな白い点として残ることもあります。こうした特徴は、加工ではなく本物ならではの痕跡として理解しておきましょう。
判断に迷ったときの確かめ方
ここまでのポイントを確認しても、判断しきれないことはあります。とくにコンポジットは、専門家でも外見だけでは見抜けない場合があります。
購入前に販売店へ確認したいこと
購入前に迷ったら、店に直接聞いてみるのが確実です。
次のような質問をしてみましょう。
- 修復や補彩はあるか
- 修復はどの部分か
- 複数個体の組み合わせか
- 産地と地層はどこか
- 返品の対応はあるか
誠実な店であれば、修復の有無や範囲を説明してくれます。回答があいまいだったり、質問をはぐらかされたりする場合は、購入を見送るのも一つの判断です。
店の選び方や価格の目安は、「三葉虫の化石はどこで買う?」で詳しく紹介しています。購入先に迷っている人は、あわせて参考にしてください。
専門家に見てもらう
手元の標本がどうしても気になる場合は、専門家に見てもらう方法があります。研究の分野では、X線撮影やCTスキャンで内部の密度の違いを調べ、コンポジットを見抜く手法も報告されています。
化石の鑑定をどこに頼めばよいかは、「化石の鑑定はどこでできる?」で解説しています。目的に合わせて、依頼先を選んでみてください。
まとめ
三葉虫の偽物には、樹脂の複製、修復、補彩、コンポジットといった種類があります。とくにモロッコ産のデボン紀の三葉虫や、大型でトゲの多い種類は、加工の有無をていねいに確かめたい標本です。
購入前は、同じ形の個体がないか、母岩の色が分かれていないか、ヒビが本体と母岩をまたいでいるかを写真で見ましょう。手元の実物では、ルーペで気泡や複眼を、ブラックライトで修復の跡を確認できます。
どのポイントも、一つだけで本物か偽物かを断定できるものではありません。いくつかの手がかりを組み合わせ、それでも迷うときは販売店や専門家に確認することで、納得して三葉虫を手元に迎えられるはずです。
ほかの化石の見分け方
▶ アンモナイトの偽物・加工品の見分け方
▶ そのメガロドンの歯は本物?
▶ その恐竜の歯の化石は本物?
▶ そのモササウルスの歯は本物?
参考文献
- American Museum of Natural History「Fake Trilobites」 https://www.amnh.org/our-research/paleontology/paleontology-faq/trilobite-website/the-trilobite-files/fake-trilobites
- Le Comptoir Géologique「How to identify trilobites fakes」 https://www.le-comptoir-geologique.com/fake-trilobite.html
- trilobita.de「Tutorial – How to identify fake trilobites」 https://www.trilobita.de/interim/translation
- Corbacho, J. ほか(2019)「Use of CT scanning and radiography as legal expert evidence in Paleontology (Trilobites of Morocco)」 https://ddd.uab.cat/record/236115