
小型恐竜ナノティラヌスの骨格標本「ジョディ」が、2026年10月27日に約75億円で落札されました。T・レックスの半分ほどの大きさなのに、なぜそこまで高いのでしょうか。
この記事では、ニュースの要点、T・レックスとの違い、高値の理由を整理します。あわせて、個人でもナノティラヌスの化石は買えるのか、買うときに何を確かめればよいかを、化石専門メディアの視点で解説します。
- 落札額と、恐竜骨格の高額落札ランキング
- ナノティラヌスとT・レックスの違い
- 「ナノティラヌスの歯」を買うときに確かめること
ナノティラヌス「ジョディ」が約75億円で落札
2026年10月27日、米ニューヨークの大手オークションハウス「サザビーズ」に、ナノティラヌスの骨格標本が出品されました。6人の入札者が12分あまり競り合い、手数料込みで4730万ドル(約75億円)で落札されています。
事前の予想落札額は600万〜900万ドルでした。予想の上限の5倍以上まで競り上がったことになります。落札者の名前は公表されていません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 愛称 | ジョディ(Jodi) |
| 種類 | ナノティラヌス(ティラノサウルス科) |
| 時代 | 白亜紀末(約6700万年前) |
| 発見 | 2019年、米モンタナ州 |
| 産地 | ヘルクリーク累層 |
| 大きさ | 体長約6m(T・レックス「ガス」の約半分) |
| 骨の数 | 約190個(骨格の約55%。歯35本がそろうほぼ完全な頭骨を含む) |
| 落札額 | 4730万ドル(約75億円) |
愛称の「ジョディ」は、モンタナ州で牧場を営む発見者、ジョディ・ピアソン氏の名前に由来します。発掘は商業古生物学者のクレイトン・フィップス氏が担当し、その様子は2020年にドキュメンタリー番組でも取り上げられました。
展示用に組み上げた骨格は、見つからなかった部分を3Dプリントや彫刻で補っていると報じられています。大きな骨格標本ではよくある方法です。
化石を買うときも、「本物の化石」と「補った部分」を分けて考えるのが大切です。
ナノティラヌスとはどんな恐竜?
ナノティラヌスは、T・レックスと同じ時代、同じ地域に生きていたティラノサウルス科の肉食恐竜です。ただ、つい最近まで「本当に存在する種なのか」が議論されていた、少し変わった経歴を持っています。
長くT・レックスの子どもと考えられてきた
ナノティラヌスは1988年に新種として命名されました。しかしその後、「小型のティラノサウルス類はT・レックスの若い個体にすぎない」とする意見が強くなり、約40年にわたって論争が続いていました。
流れを変えたのが、2025年10月に科学誌『Nature』に掲載された研究です。トリケラトプスと小型ティラノサウルス類が一緒に見つかった有名な化石「デュエリング・ダイナソーズ」を詳しく調べた結果、小型のほうは成長をほぼ終えた個体だとわかりました。
成体なのにT・レックスよりはるかに小さいため、別の種類と考えるほかありません。この研究によって、ナノティラヌスは独立した種であるという見方が一気に優勢になりました。
T・レックスとの違い
同じティラノサウルス科でも、ナノティラヌスとT・レックスは体のつくりや狩りのスタイルが大きく異なります。
| 比較項目 | ナノティラヌス | T・レックス |
|---|---|---|
| 体長 | 約6m | 約12m |
| 体つき | 細身で脚が長い | がっしりして重い |
| 前あし | 比較的大きく力強い | 小さい |
| 歯の数 | 多い | 少なめで太い |
| 狩りの特徴 | 素早さを生かす | 強い噛む力で仕留める |

白亜紀の終わりの北アメリカでは、大型のT・レックスと俊敏なナノティラヌスがすみ分けていたと考えられています。恐竜時代の最後の生態系が、これまで考えられていたより多様だったことを示す発見です。
T・レックスの歯の化石の値段や買える場所は、ティラノサウルスの歯はどこで買う?で紹介しています。
小型なのに約75億円になった3つの理由
ジョディの大きさは、2026年7月に落札されたT・レックス「ガス」の半分ほどです。それでもほぼ同じ価格がついた背景を、ジュラノートでは3つの理由から考えます。

理由1|まとまった骨格は世界に3体だけ
サザビーズによると、まとまった骨格が残るナノティラヌスは、ジョディを含めて3体しか知られていません。そのうちの1体はすでに博物館が所蔵しているため、個人が手に入れられる機会は非常に限られています。
化石の価格は、大きさよりも「代わりがあるかどうか」で決まる面が大きいものです。ジョディは、まさに代わりのきかない標本だったといえます。
理由2|「別種」と認められて注目度が急上昇
Nature誌の論文が出てから、ジョディの出品までは約1年しかありません。「T・レックスの子どもかもしれない化石」から「独立した種の貴重な成体」へ、評価が大きく変わった直後の出品でした。サザビーズも、この研究以降に競売に出た初めてのナノティラヌスの骨格だと説明しています。
分類の議論に決着がついたことで、コレクターや投資家の関心が一気に高まったと考えられます。化石の価値は、研究の進展によって大きく動くことがあるという好例です。
理由3|成体で頭骨まで残る保存状態
ジョディには、歯35本がそろうほぼ完全な頭骨が残っています。骨格全体では約55%ですが、体の大きさや骨の発達の具合から、成体に近い個体と推定されている点も重要です。
恐竜の骨格標本では、頭骨が残っているかどうかで評価が大きく変わります。「成体に近い」「頭骨がほぼ完全」という条件がそろったことが、価格をさらに押し上げたといえるでしょう。
恐竜骨格の高額落札ランキング
ジョディの約75億円がどれほどの金額なのか、過去の高額落札と比べてみましょう。為替の影響を避けるため、ドルで並べています。
| 順位 | 愛称 | 種類 | 落札 | 落札額 | 円換算(報道時点) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | ガス | T・レックス | 2026年7月 | 5010万ドル | 約81億円(2026年7月) |
| 2位 | ジョディ | ナノティラヌス | 2026年10月 | 4730万ドル | 約75億円(2026年10月) |
| 3位 | エイペックス | ステゴサウルス | 2024年7月 | 4460万ドル | — |
| 4位 | スタン | T・レックス | 2020年 | 3185万ドル | — |
※ガスとジョディは手数料込みの額です。エイペックスは報道によって条件の書き方が異なります。円は報道時点の換算で、時期によってレートが違います。
2020年のスタンから6年で、最高額はドル建てで約1.6倍になりました。円で比べると円安の分だけ差はさらに大きく見えます。2026年だけで歴代1位と2位が生まれたことからも、恐竜化石の市場が過熱していることがわかります。
研究者が懸念する「個人への売却」
高額落札が話題になる一方で、研究者からは懸念の声も上がっています。個人に売られた化石は、研究や一般公開の機会が失われる可能性があるためです。
ここで注目したいのは、ナノティラヌスを別種と認めた研究そのものが、博物館に入った標本から生まれたという点です。「デュエリング・ダイナソーズ」は長く個人の手元にありましたが、2020年に博物館が取得したことで、研究者が詳しく調べられるようになりました。
研究によって評価が高まった化石が、研究の届きにくい場所へ移っていくかもしれません。今回の落札には、化石の価値と学術研究の関係を考えさせられる一面もあります。

個人コレクターへの影響と化石の楽しみ方
数十億円の骨格は別世界の話ですが、化石を集める個人にもまったく無関係ではありません。ここでは、話題の恐竜の化石を購入するときに気をつけたい点を紹介します。
話題の恐竜の化石は「同定の根拠」を確認
ヘルクリーク累層からは、恐竜の歯や骨の破片も多く見つかり、個人向けにも流通しています。大きなニュースのあとは、関連する種名の化石に注目が集まり、出品数や価格が動くこともあります。
ただし、歯や骨の破片だけでナノティラヌスとT・レックスの若い個体を見分けるのは、専門家でも簡単ではありません。「ナノティラヌスの歯」として売られていても、確実な根拠があるとは限らないのです。
そのため購入前には、次の点を確認しておくと安心です。
- 産地と地層が明記されているか
- 種名の根拠を説明できるか
- 合法に採集された化石か
- 修復や補填の範囲はどこか
不明な点があれば、購入前に販売店へ問い合わせてみましょう。説明が丁寧なお店ほど、安心して取引できる傾向があります。補修や接着の見分け方はその恐竜の歯の化石は本物?で解説しています。
ナノティラヌスの歯は個人で買える?
骨格は数十億円ですが、歯は海外のオークションで個人向けに出品されています。たとえば海外オークションのCatawikiでは、米ワイオミング州産で長さ3.6cmの「Nanotyrannus sp.」の歯が、見積もり2,900〜3,600ユーロに対して401ユーロで終了していました(2026年10月29日確認)。割れを1か所接着済みと書かれた品で、1件だけなので相場とはいえません。
同じ地層の小さなティラノサウルス類の歯でも、販売者によって名前の付け方が違います。ラベルは次のように読み分けましょう。
| ラベルの書き方 | 意味 | 確かめること |
|---|---|---|
| Nanotyrannus lancensis | 種まで特定したという表示 | そう判断した根拠(歯の形・ギザギザの細かさなど) |
| Nanotyrannus sp. | 属まで。種は特定していない | 産地と地層、補修の有無 |
| Tyrannosaurid(ティラノサウルス科) | どの属かは特定していない | 「ナノティラヌスの可能性」と書かれていても断定ではない |
| T. rex juvenile(幼体) | 以前の考え方での名前 | 同じ歯が今は別の名前で売られることもある |
本物の歯より手軽に飾りたい場合は、レプリカも選択肢です。
(→ 化石は本物とレプリカどっちを買う?)
手元の恐竜の歯を売りたい場合は、恐竜の歯の買取相場はいくら?と恐竜化石の買取相場はいくら?で落札例をまとめています。
運営者の視点
筆者が最初に手に入れた化石は、オトドゥスの歯3本セットとアンモナイトでした。75億円の骨格とは比べものになりませんが、数千万年前の生き物の一部を手に取れる感動は同じだと感じています。
今回のニュースは、化石の価値が希少性だけでなく、研究の進展によっても大きく変わることを教えてくれました。手元のコレクションも、いつか新しい研究で見え方が変わるかもしれません。そう考えると、化石集めがいっそう楽しくなります。
よくある質問
- Qナノティラヌスは恐竜ですか?
- A
はい。T・レックスと同じティラノサウルス類の肉食恐竜です。2025年のNature誌の論文以降、T・レックスの子どもではなく別の種類とする見方が優勢です。
- Qジョディは誰が落札したのですか?
- A
落札者は公表されていません(2026年10月29日時点)。展示先も発表されていません。
- Q恐竜の化石でいちばん高く落札されたのは?
- A
2026年7月のT・レックス「ガス」で、5010万ドル(約81億円)です。ジョディはそれに次ぐ2番目です。
- Qナノティラヌスの歯はいくらで買えますか?
- A
海外オークションでは、3.6cmの歯が401ユーロで終わった例があります(1件の例)。名前の付け方が販売者ごとに違うため、産地・地層・補修の有無とあわせて確かめましょう。
まとめ
ナノティラヌス「ジョディ」は、恐竜の骨格標本として史上2番目となる約75億円で落札されました。小型の恐竜でも、希少性、分類の決着、保存状態という3つの条件がそろえば、T・レックスに並ぶ価値がつくことがわかります。
一方で、貴重な標本が個人の手に渡ることへの懸念も残ります。化石を集める私たちも、産地や合法性を確かめたうえで、研究と共存できる形で化石を楽しんでいきたいものです。
参考文献
- CNN.co.jp「恐竜ナノティラヌスの希少な骨格標本、75億円で落札 史上2番目の高値」(2026年10月28日) https://www.cnn.co.jp/fringe/35254077.html
- TheJournal.ie「Rare nanotyrannus skeleton ‘Jodi’ sells for $47.3m after 12-minute bidding battle」(2026年10月28日) https://www.thejournal.ie/jodi-dinosaur-skeleton-auction-7206887-Oct2026/
- Popular Science「Nanotyrannus named Jodi needs a new home (if you have $9M)」 https://www.popsci.com/science/nanotyrannus-auction-jodi/
- CNN.co.jp「希少なTレックスの化石が競売に、史上最高額の81億円で落札 NY」 https://www.cnn.co.jp/fringe/35250628.html
- ギネス世界記録「Gus the T. rex roars into the record books after securing unprecedented auction bid」(2026年7月) https://www.guinnessworldrecords.com/news/2026/7/gus-the-t-rex-roars-into-the-record-books-after-securing-unprecedented-auction-bid
- National Geographic「Nanotyrannus / T. rex dueling dinosaur fossil debate」 https://www.nationalgeographic.com/science/article/nanotyrannus-t-rex-dueling-dinosaur-fossil-debate
- Zanno, L.E., Napoli, J.G. “Nanotyrannus and Tyrannosaurus coexisted at the close of the Cretaceous.” Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09801-6
- Catawiki「ティラノサウルス類の歯 – Nanotyrannus sp」 https://www.catawiki.com/ja/l/105767424-nanotyrannus-sp-lance-creek-formation